ひと昔前とは異なり、今では転職などによって人生のプランは様々に多様化しており、珍しいことではありません。
でも、「上司にスマートに退職を伝える方法」という記事にも書いたように、一緒に働いている同僚や上司に転職や退職の意思が伝わってしまうのはちょっと気まずいですよね。ですから、転職活動中は話す内容にも気をつける方がほとんどだと思います。
そしていざ転職するということが皆に知られるところとなったとき、返答に困るのが、転職先です。
「辞めてからの転職先はもう決まっているの?」
「どこの会社に転職するの?」
さて、このとき、正直に転職先を伝えるべきでしょうか、伝えないべきでしょうか。
正直に答えるべきかどうかは個人の自由です。
今回は、そのような場合にどう考えるべきかということについて紹介します。
会社によっては、退職する人に「転職先が決まっているなら教えてくれ」と言うところもあるそうです。
しかし、これに正直に答える必要はありません。
どの会社に転職するかということはあなたのプライベートに属することであり、誰にどこまで話すべきかは自由に選んでいいのです。
退職後の予定を正直に話さない方がいい理由を紹介します。
どんなに良い会社であっても、仲間である社員が辞めて、別の会社に行くことを喜ばしく思うことはありません。
個人的に親しくしていて、人間としてあなたの将来のことを考えてくれているような同僚や先輩などは別として、会社の立場に立っている上司などは、心から応援しているわけではありません。
あなたが優秀であれば、残ってほしいと考え、引きとめたいと思うでしょう。
そのような場合に転職先を正直に伝えても、「じゃあしかたない」とすんなりと諦める可能性は低いかもしれません。
あなたを引きとめるつもりはなくても、何かしらケチをつけたい気持ちになることも考えられます。
「起業するなんて、君には無理だよ」
「あの業界では君のキャリアは活かせないよ。残った方が賢いと思うね」
転職先の悪口や不安材料をそっと耳打ちしてくるかもしれません。
そんなことで転職の意志が揺らいだりすることはないかもしれませんが、気分としては不快なものです。また、必要以上に不安を抱いてしまう可能性もあります。
せっかく新しく出発しようとしているのに、精神的に望ましくない状態になるでしょう。
もし転職先が現職の会社と競合しているような場合なら、なおさらです。退職するまで、まるで裏切者のような扱いを受ける危険性もありますし、次に紹介するような妨害行為をされる可能性もあります。
誰もがあなたを喜んで見送ってくれるつもりでいるとは限りません。
辞めていくあなたを恨んだりねたんだりして、転職先に根拠のない悪口を言う人も、もしかしたらいるかもしれないのです。
「あの人はトラブルが多くて、使い物にならない人材だ」
といった悪意のある情報を匿名で流すようなこともあり得ないとは言えません。
とくに、ハラスメントを理由に退職・転職をした人が、元上司の嫌がらせで、せっかく決まった転職を断念するようなケースもあるのです。
現職の会社と転職先の会社の関係によっては、転職先に「社員を引き抜かれるのは困る」などと抗議をすることもあり得ます。
このようなケースはまれなものかもしれませんが、自分を守るためには、慎重に考えるべきだと言えるでしょう。
はなから転職先を伝えるつもりはなく、むしろ秘密にしておきたい人は、
「上司に転職先がバレたらどうしよう」
などと不安になるかもしれません。
でも、誰かに話さなければ、転職先がバレる可能性は低いと言えるでしょう。
ハローワークや転職サイトなどでは個人情報を厳密に取り扱っているため、前職の会社や上司から問い合わせがあっても、転職先を伝えるようなことはしません。
バレてしまうのは、親しいと思っていた人に転職先を伝えてしまっていたような場合です。
転職先に関する資料やメモなどが人目にふれないように注意することも必要です。
転職先の質問に答えることは個人の自由ではありますが、よく考えてみれば、伝えることには何のメリットもありません。
言うべきか迷っているなら、言わないのが賢明です。
なぜなら、それを伝えても何もいいことはないからです。
残されたその会社での退職までの流れがスムーズになるわけでもなければ、転職した先で何か役に立つこともありません。
上に紹介したようなリスクの可能性があるのですから、メリットのないことをする必要はないでしょう。
「私の問題ですので、企業名は控えさせてください」
ということを言えればいいのかもしれませんが、雰囲気によっては角が立ってしまうことも考えられます。
そのような場合は、曖昧な返事、適当な返事でもいいと思います。
「落ち着いたら、こちらからご連絡します」
「今バタバタしているから、落ち着いたら連絡するね~」
そんなオブラートに包んだ言い方をしてはどうでしょうか。
基本的には、今のところ未定なので伝えられない、というスタンスに立って答えればいいのです。
ここでまた「親の介護」「体調不良で」というようなウソをつくのは、後々のことを考えると避けたほうがいいでしょう。
どうしても転職先を伝えたい場合には、無事に退職し、そして次の会社への転職がすべて完了してからにしましょう。
転職して1年ほど過ぎたところで、まだ連絡をとりあっているような人がいれば、それは今後も友人として付き合っていくことになる人だと言えるので、打ち明けても問題ないでしょう。
連絡をとりあってもいない人には教える意味はないのです。
会社によっては、競合や同業他社への転職を禁止しているような場合もあり、それを理由に、転職先の会社名を伝えるように言ってくる会社もあります。
退職する社員に対し、競合会社への転職を禁止することを「競業避止義務」といいます。
就業規則に決められていたり、入社時・退職時に同業者へ転職しない旨の誓約書を書かされることもあります。
「同業他社への転職は会社の規程違反だから教えろ」
と言われると、不安に思ってしまうことでしょうけれども、少なくとも、同業他社に転職するのでなければ「未定です」と答えることに問題はありません。
誓約書を書けと言われて、「転職するかどうか未定」「同業に転職する予定はない」という態度でサインを拒んでも問題はありません。
なぜなら、退職後に自由に仕事を選ぶことは憲法で保障されている基本的権利だからです。
競合会社への転職禁止は無制限に制約されるわけではありません。
合理的な範囲で転職先を制限することはできますが、どこまでが合理的な範囲かということについての判断はそう簡単にはできません。
退職者の職業選択の自由を縛るような規程が適用されるケースは広くはないでしょう。
たとえば期間や地域などを限定せずに同業他社への転職を禁じることはできません。
トラブルになった場合には、地域の労基署や労働相談所に、就業規則のコピーを持参し、合理性はあるかどうかを確認しましょう。
退職した後の予定を隠すことが、会社への非常識な裏切りであるかのような「悪いこと」と思ってしまう人もいるかもしれません。
また、何か会社側に必要な手続きのために伝えなければならないと思っている人もいるかもしれません。
そのように、転職先を伝えるかどうか悩む人のために今回の記事を書きました。
転職先を伝えるかどうかはあなたの自由です。
転職先をしつこく聞かれてどう答えるべきか迷ったら、「転職後に改めて報告する」と伝えてかわすのがいいでしょう。うっかり口を滑らせてしまうことは、円満退社できなくなることにつながる可能性もあります。
転職先を伝えないことは非常識でも不義理でもないので、自分の身をきちんと守りましょう。
もちろん、逆に、転職先を答えてはいけないという決まりもありません。退職理由や上司との関係、職場の雰囲気などによっては、転職先を答えても問題ない場合もあります。
人間としても素晴らしい上司が、あなたの将来を応援してくれているかもしれませんし、会社が、退職後のあなたの生活を親身に心配している可能性もありますよね。
また、転職先の業界や、得意先につながっておいたほうが何かと便利など、ビジネス上つながっておきたいような場合には、転職先を伝えることにもメリットがあると言えるでしょう。